ADHDの日課

19歳〜。苦手な日課です。ADHD(手帳は二級) 名前欅 流了リ(けやき

そらちゃんのこと。


親戚が集まったお正月。そらちゃんはテレビを指差して、
「そらちゃんね、これに出てみーんなを笑顔にするんだもん!」
と言った。
「そうなの?それは楽しみだねぇ」
とおばぁちゃんが言った。
お父さんとお母さんもその様子を見ながら微笑んでいた。そらちゃんは引っ込み思案だ。公園の滑り台の列も一番後ろがよかった。だって、自分よりも後ろにいる人のことが気になって仕方がなかった。「もし上手に滑れなかったら、後ろのお友達はなんて言うかな・・・」とか、考えていた。だから誰かが後ろに並んだらそらちゃんはまた一番後ろに行った。だから、そらちゃんは滑り台をただ楽しく滑ることが出来ない。

そんなそらちゃんは、何故か神様が好きだった。それはお母さんの方のおばぁちゃんと、お父さんの影響だった。お母さんの方のおばぁちゃんは、毎朝神棚に手を合わせていた。どんなに冷え込む朝でも、じーっと手を合わせていた。お父さんは無口で何を考えているか分かりにくいけれど、お父さんの書斎には神社の本がいっぱいあった。

はじめはお寺と神社の区別もつかなかったけれど、自然と「あれは鳥居があるから神社!」とか、「お墓があるからお寺!」とか、話すようになった。そのときのそらちゃんは、いつもビクビクしているそらちゃんと別人みたいだった。
お母さんは臆病なそらちゃんを心配して、遊ぶ時は公園に連れて行ったけれど、お父さんは近くの神社を公園代わりにした。だから、お父さんと遊ぶときはいつも神社だった。
そらちゃんは伸び伸びと遊んだ。お父さんはいつも静かにそらちゃんを見守っていた。

境内の中に池があって、そこに鯉が沢山いた。そらちゃんはそれを「大きい金魚ちゃん!!!!」と呼んでいて、大好きだった。
「大きい金魚ちゃんに会いに行こう」
とお父さんを誘って「今日はお休み」と言われると「そらちゃんの大きい金魚だからお世話しないといけないの!」と駄々をこねた。そういう時はお母さんが「大きい金魚ちゃん」のところに連れて行った。そらちゃんは池に落ちちゃうんじゃないかってくらいに、ジーっと「大きい金魚ちゃん」を見ていた。

もうすぐそらちゃんは卒園する。小学校に入るのだ。
そらちゃんはお受験をした。周りの人は口を揃えて「そらちゃんは臆病だから難しいんじゃないの」と言っていたけど、筆記試験と心配だった面接も堂々とやってのけた。
 そらちゃんは人前に立つと堂々とした。お父さんとお母さんは、そらちゃんがはじめて言った夢を思い出した。
・・・「テレビに出る」
「そらちゃんには向いているかもしれない」、と思った。だけど二人ともそれを口にしなかった。
夜ごはんの時、お母さんがそらちゃんに聞いた。
「そらちゃん、合格おめでとう。そらちゃんは将来何になるの?」
そらちゃんは
「おまつりだよ!」
と言った。お母さんは首を傾げたが、お父さんは「ふ〜ん」と言った。
「そらちゃん、テレビに出る人になるんじゃなかったの?」
とお母さんが聞くと、「うん!なるよ!」とも言った。
お父さんが声を上げて笑った。

次の日、そらちゃんはお父さんといつもの近所の神社に行った。

テレビに出ることも、公園で遊ぶことも、そらちゃんにはおまつりだった。
ご飯を食べることも、面接をすることも、お掃除のお手伝いも、全部おまつりだった。
そらちゃんはお父さんに聞いた。「ねぇ、そらちゃんは臆病なの?」。
お父さんは
「それがどうした?それが神様に関係あるか?」
と言った。
そらちゃんはううんと首を振って、ニッコリした。臆病なんて関係ない。
「それがどうした、それがどうした」お父さんと手を繋いで家に帰った。

 そらちゃんのランドセルにはいつも日本神話の本が入っていた。
そらちゃんはお父さんと遊んだ神社を横目に、小走りで小さな劇団の芝居の稽古に向かった。

そらちゃんは沢山の人を笑顔にする、芸能の女神さまになった。

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